2011.10.24更新

▲演題一覧へ

先天性心疾患・構造異常 / 心電図異常・不整脈 / 心筋炎 / 肥大型心筋症
希少疾患 / 症候群と心筋疾患 / 拡張型心筋症・拘束型心筋症

肥大型心筋症

座長:津田悦子(国立循環器病研究センター 小児循環器科)


発症早期より心拡大、著明な心嚢液貯留を呈した、非典型的な肥大型心筋症の一例

  国立成育医療研究センター 循環器科 中釜悠、濱猛浩、朝海廣子、小野博、金子正英、三崎泰志、賀藤均

早期より心拡大を呈し、肥大型心筋症として非典型的な一乳児例を経験し、原因疾患の特定に苦渋している。児の経過について報告する。
【症例】4ヶ月男児、心雑音の精査で紹介となったが、受診時には軽度の呼吸促迫を認めた。心エコーで全周性左室心筋肥大、左室拡大、著明な心嚢液貯留を認め、緊急で心嚢ドレナージが行われた。心筋逸脱酵素の上昇はなく、BNP 1350pg/mlと高値であり、原因不明の肥大型心筋症、心不全の診断で抗心不全療法が開始された。基礎疾患の検索目的に、画像検査、乳酸・ピルビン酸、タンデムマススクリーニング、尿中有機酸分析、ポンペ病遺伝子検査を行うも、いずれも有意な所見は得られなかった。心筋生検では、心筋細胞の錯綜配列は認められず、グリコーゲン蓄積やミトコンドリア異常を示唆する変化は認められなかった。現在、児は11ヶ月となったが、ベータ遮断薬などの内服治療により心不全の進行は無く、外来で経過観察中である。



急速に心筋肥大および僧帽弁逆流が進行し心筋切除術と僧帽弁置換術を施行した閉塞性肥大型心筋症の1乳児例

  山梨大学 小児科 喜瀬広亮、星合美奈子、小泉敬一、長谷部洋平、杉田完爾
  同 第二外科 鈴木章司、加賀重亜喜、松本雅彦

【背景】僧帽弁逆流(MR)を伴う閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対しては外科的治療が選択されるが、心筋切除術と同時にMRに対してどのような治療介入を行うかについては意見が分かれる。
【症例】1ヵ月健診で心雑音を指摘され当院を受診した。心エコー上、左室肥大、左室流出路狭窄(LVOTO)、僧帽弁逆流、肺動脈狭窄が認められた。生後8ヵ月時(体重7.1 kg)、急激にMRが進行し肺うっ血と呼吸困難が出現したため緊急で左室心筋切除術と僧帽弁置換術(ATS,16mm)を施行された。術後、LVOTOは軽減し肺うっ血も改善した。
【まとめ】本症例は体格が小さく大動脈弁を介しての心筋切除術が困難で、僧帽弁の腱索・弁尖の異常な肥厚を認めため僧帽弁置換術を施行した。HOCMの小児に対する僧帽弁置換は血栓症や再手術の問題から可能な限り回避すべきであるが、経大動脈弁的な心筋切除が困難で僧帽弁の形態異常を伴う場合には有効な方法と考えられた。



左室心筋切除術後に中隔肥厚の著明な改善と大動脈弁逆流の増悪をみた閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の男児

  国立循環器病研究センター 小児循環器科 阿部忠朗、津田悦子
  鹿児島こども病院 循環器科 奥章三
  聖路加国際病院・ハートセンター 川副浩平

【背景】小児のHOCMは治療と介入のタイミングに苦慮する。
【症例】生後2カ月時に心雑音を契機にHCMと診断され、生後3カ月から左室流出路狭窄に対してPropranololが開始された。5歳時から胸痛を訴え、7歳時から全身倦怠感、胸痛、ふらつきのため、通学困難となった。BNPは2500まで上昇し、心カテではLV圧216/14mmHg、左室流出路(LVOT)の圧較差は120mmHgであった。右室心筋生検では錯綜配列を認め、二次性心筋症を示唆する所見はなかった。左室心筋切除術が施行され、自覚症状は消失し、BNPは600前後、心エコーでLVOTの流速は2.5m/s、ARはtrivialであった。術後1年頃 (8歳)から再び、ふらつき、胸痛が出現し、LVOTの流速は4.9m/s、ARはmoderateに進行した。中隔壁厚は術前33mmから8mmとなり、左室中部の狭窄は改善したが、大動脈弁下狭窄が進行していた。9歳時の心カテではLV圧157/17mmHg、LVOTの圧較差は30mmHgであった。
【考察】左室心筋切除術はQOLの改善に有効であった。左室中部狭窄は改善したが、大動脈弁下狭窄が露見し、ARが増悪したと考えられる。



TNNT2遺伝子内に2つの異なった点変異を有する家族性肥大型心筋症の13歳女児例

  国立循環器病研究センター 小児循環器科 平井聖子、宮崎文、阿部忠朗、津田悦子、白石公
  東京医科歯科大学 難治疾患研究所 木村彰方

両親がTNNT2遺伝子の別の点変異をもち、それぞれを有する(複合ヘテロ接合)肥大型心筋症(HCM) 患者を経験したので報告する。症例は13歳女児。母親がHCMであったが、出生後の検査では異常を指摘されなかった。9歳時、運動時に失神し、数分間で回復した。左室緻密化障害と診断されメトプロロールの内服が開始された。11歳時、坂道を駆け上がった際に失神し、AEDでVFに対し除細動され、当院を紹介された。心筋生検を含めた検査でHCMと診断し、VFの既往からICD植え込み術を施行した。その後も階段を駆け上がった時にICDが作動しソタロールを追加した。13歳時、心不全症状が出現しEF57%と心収縮能の低下を認めた。壁厚はLVPWd 7.1mm,IVSd 14.9mmで、LVDdは44.7mmであった。心カテでは、LVEDPは27mmHgであった。TNNT2の変異例は予後不良例が多いとの報告があり、原因遺伝子の同定は有用である。

日本小児心筋疾患学会事務局

〒329-0498
栃木県下野市薬師寺3311-1
TEL:0285-58-7366